『ハイエク 知識社会の自由主義』(池田信夫著/PHP新書)

『ハイエク 知識社会の自由主義』(池田信夫著/PHP新書)

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この本はハイエクの超入門本です。
2時間あれば読めちゃいますが、中身は濃かったです。

新自由主義の旗手として近年注目されているハイエクですが、手放しの自由ではダメでルールの設計が重要だと主張しています(「ルールの功利主義」)。

これ禿同です!


以下備忘録ですが、特に、

「社会に目的なんかない」

という一文は至言だと思いました。
当たり前といえば当たり前ではありますが、私のパーセプションが大きく変わった一言です。

<備忘録>

●「不完全な知識にもとづいて生まれ、つねに進化を続ける秩序が、あらゆる合理的な計画をしのぐ」

●歴史を自由の拡大する過程ととらえる進化論的な発想(カント、ヘーゲル、マルクスと同一)

●歴史を動かしたのは、一見「科学的」な新古典派経済学ではなく、観念的だが人々の情緒に訴えるマルクスとハイエクの理論だった

●マッハは物理法則は実験的事実を主観的に構成したフィクションにすぎないという懐疑主義をとなえた

●メンガー 限界効用 商品の価値は「それを失ったときの有用性と等しく決まる」

●経済理論の過去100年の重要な進歩は、ことごとく主観主義の一貫した適用による進歩であった

●科学的な「パラダイム」も一種の宗教のようなものであり、それを倒すのは実験でも事実でもなく、よりすぐれたパラダイムなのだ

●価格メカニズムの意味はロビンズが定義したような「希少な資源の効率的な配分」にはとどまらない。重要なのは、価格メカニズムで実現される「知識の経済性」、すなわち市場の参加者が正しい行動をとるために知るべき知識が計画経済よりもはるかに少なくてすむということである。価格メカニズムの優位性をもたらしているのは、新古典派的な資源配分の効率性ではなく、知識のコーディネーションの効率性なのである。

●現実に意志決定を行うとき、人々がもっている情報は、きわめて限られたものであり、驚くべきなのは、むしろこのようなわずかな情報によって社会秩序が保たれているという事実である。市場のコーディネーション機能を支えているのは、その基礎になっている財産権や習慣法(コモンロー)などのルールの体系なのである。

●断片的な感覚が集まってパターンを自発的に形成するという考え方は、ハイエクの遠い親戚であるヴィトゲンシュタインの後期の思想とも共通する

●社会に目的なんかない

●われわれの社会が最適だという保証もなければ、それに近づいているという保証もない。必要なのは、人々に間違える自由とそれを修正する自由を与えることによって、少しでもましな状態に保つことだけだ

●ハイエクを積極的な自由の概念を否定し、真の自由は古来からある「他人の恣意的な意思による強制に服従しない」という消極的な概念でしかありえないとする

●ヘーゲルは『歴史哲学』の有名な序文で、「世界の歴史とは、精神が本来の自己をしだいに正確に知っていく過程を叙述するものだ」としたうえで、「東洋人はひとりが自由であると知るだけであり、ギリシアとローマの世界は特定の人々が自由だと知り、われわれドイツ人はすべての人間が自由だと知っている」と述べた。「自由とは必然の実現にほかならない」。こうして自由と必然という対立概念は「弁証法的に統一」される。

●ハイエクの出発点は、「経験的な事実から、論理的に法則を帰納することはできない」という論理実証主義を否定するヒュームの懐疑主義だった。ハイエクは反合理主義者であり、未来的だった。

●ギリシア人は秩序を人為的な秩序(タクシス)と自然発生的な秩序(コスモス)とした。コスモスは言語や慣習など、自然の秩序ではないが、かといって人間が意図的につくった秩序でもない。これをハイエクは「自生的秩序」と呼んだ。

●アダム・スミス『道徳感情論』 他人に対する「共感」が秩序の基礎である。

●スミスは利己心を「第三者の目を意識しながら自己の利益を追求すること」と考えた。見えざる手とは、人々に共有されるこの「社会的自我」であり、神のメタファー(隠喩)だ。

●アロウの「不可能性定理」 首尾一貫した意思決定をしようと思うと、特定の人の決定を他の人より優先する「独裁制」をとるしかない

●「ルールの功利主義」 効用を最大化するという目的には意味がないが、人々の自由度を最大化するルールを設計することが、自由な社会を建設するためには重要なのである

●利己的な行動を「不道徳」と感じるメカニズムが、遺伝子に埋め込まれていると想定される

●人は、各個人の境界がはっきりしており、それぞれの領域内では自由に行動できる場合に限って、互いに衝突しないで自分の目的を追及できるのである

●伝統的には抑制すべき悪徳とされてきた利己心を積極的に認めたことが、近代西洋文明が他の文明圏に比べて飛躍的に大きな富を生み出す重要な原因だったことは間違いない

●キリスト教による自然の「合理化」 アジアでは人間を自然の一部と考え、自然の実りをわけてもらう営みとして農業をとらえていた。一方、キリスト教では人間世界の外側の征服すべき対象であった。

●ロバート・ボイル 「実験とは自然を拷問にかけて自白させることだ」

●人類史上最大の革命は、産業革命でも情報革命でもなく、一万年前に遊動生活から定住生活に移った「定住革命」だった

●実験経済学が示すのは、人々は自由な選択を好まず、できるかぎり今までのままでいようとするということだ

●人類の歴史の圧倒的大部分は、飢えとの闘いの連続であり、選択の自由などというものはなかった

●われわれは自由の過剰な世界で、何を選んでいいのかわからないのである。だから重要なのは「選択の自由」よりも、無意味な情報や有害な情報を排除して選択を幅を狭めることだ。

Posted by simfarm at 2008年09月02日 22:24