『動的平衡 生命はなぜそこに宿るのか』(福岡伸一著)

私にとって今年のピカイチ本のご紹介です。

『生物と無生物のあいだ』『ロハスの思考』で一世を風靡した福岡伸一氏の最新作です(といっても発売されて少し時間が経っていますが)。

『動的平衡 生命はなぜそこに宿るのか』(福岡伸一著/木楽舎)

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正直、この分子生物学の本を読んで、思わず泣いてしまいました(TT)。

私に“命の愛おしさ”“命のありがたさ”について、これほど淡々と真摯に語りかけてくれたものを他に知りません。
自分がこの世に“ある”ありがたさ、そして妻が“ある”ありがたさ、娘が“ある”ありがたさ、猫たちが“ある”ありがたさ、私とつながりのある人たちが“ある”ありがたさ、社会が“ある”ありがたさ、世界が“ある”ありがたさ・・・。
“ありがたい(在・有り難い)”とはホントによく言ったものです。

このブログをご覧になってくださる、これから未来を作っていく気概に満ちた皆様の基本教養として、ぜひご一読を願いたい一冊です。


以下にこの本のダイジェスト的な部分を引用しておきます。


サスティナブル(持続可能性)とは、常に動的な状態のことである。一見、堅牢強固にみえる巨石文化は長い風雨に晒されてやがて廃墟と化すが、リノベーション(改築改修)を繰り返しうる柔軟な建築物は永続的な都市を造る。


科学はこれまで人間に可能なさまざまなことをもたらしたが、同時に人間にとって不可能なことも教えてくれた。それは時間を戻すこと、つまり自然界の事物の流れを逆転することは決してできない、という事実である。これが「エントロピー増大の法則」である。
すべては、摩耗し、酸化し、ミスが蓄積し、やがて障害が起こる。つまりエントロピーは常に増大するのである。
生命はそのことをあらかじめ織り込み、一つの準備をした。エントロピー増大の法則に先回りして、自らを壊し、そして再構築するという自転車操業的なあり方、つまり「動的平衡」である。
しかし、長い間、「エントロピー増大の法則」と追いかけっこをしているうちに少しずつ分子レベルで損傷が蓄積し、やがてエントロピー増大に追い抜かれてしまう。つまり秩序が保てない時が必ず来る。それが個体の死である。
ただ、その時にはすでに自転車操業は次の世代にバトンタッチされ、全体としては生命活動が続く。現に生命はこうして地球上に38億年にわたって連綿と維持され続けた。だから個体というのは本質的には利他的なあり方なのである。
生命は自分の個体を生存させることに関してはエゴイスティックに見えるけれど、すべての生物が必ず死ぬというのは、実に利他的なシステムなのである。これによって致命的な秩序の崩壊が起こる前に、秩序は別の個体に移行し、リセットされる。
したがって「生きている」とは「動的な平衡」によって「エントロピー増大の法則」と折り合いをつけているということである。換言すれば、時間の流れにいたずらに抗するのではなく、それを受け入れながら、共存する方法を採用している。

Posted by simfarm at 2009年05月17日 11:56