Sさんの「web2.0」論

私のクライアントであるR社のSさんが、ご自身のブログで、「web2.0」について事実の整理とご自身の考えを2回にわけて紹介されています。
大変素晴らしい記事で、私のとらえている「web2.0」の概念にも近く、かつ大変広くかつ深い考察を展開されています。
本来ならば、そのブログ記事のアドレスにとんでもらえばいいのですが、Sさんのブログは関係者限定でリンクが張れない。とはいえ、ぜひ私の知り合いの方々にはご一読していただきたいので、無断で転載させていただくことにしました(事後承諾です。すみませんw)。

Sさんは技術もわかるし、何よりビジネスの天才です。
基本的な知識からかなり突っ込んだ考察まで、現在出ている「web2.0」についての論文の中では、ネットや書籍を含めて最高水準にあると思います。相当長いですが、ぜひご一読してみてください。一気に『web2.0』の達人になれます。


ここから↓


『WEB2.0についての基本的理解(前編)』

そのそもこの論文が掲載されている「WEB2.0への道」には、

内容は、「現在のインターネットサービスにおける技術的なベストプラクティカル」を整理し、まとめただけだという見方もできる。

と紹介されているし、

共感や批判を始め、さまざまな受けとめられ方がされ、「WEB2.0」という言葉だけがひとり歩きしてしまった感があった。

とも書かれている。オライリー氏本人も、論文の冒頭で

Web 2.0というミームはすっかり広まってしまい、この言葉の真の意味を理解せずに、単なるマーケティング用語として乱用する企業が増えているからだ。しかも、こうした流行語好きの新興企業の多くがWeb 2.0とは到底呼べないのに対し、われわれがWeb 2.0の例として名前を挙げたNapsterやBitTorrentは、厳密にはウェブアプリケーションですらない!)。

と述べている。

そして、僕はWEB2.0を理解するうえで2つの側面を理解することが重要だと思う。

ひとつは社会的な価値の拡大、変化という側面。すなわちWEB1.0時代には特定の人たち・企業のみが知識・智恵を発信していたのに対し、WEB2.0時代には、膨大な人数のブロガーを中心にこれまでインターネットの世界に流し込めなかった知識・智恵が流れ込むようになり、それらが有機的に構造化された状態で蓄積されていくことで、人類の智恵のレベルが飛躍的に上がっていくという流れだ。実際、ありとあらゆる知識・智恵がパソコンの前にいるだけで手に入るというものすごい時代になりつつある。(オライリー氏はこれを「Web 2.0の本質が、集合知を利用して、ウェブを地球規模の脳に変えることだとすれば」と表現している。これは既に概念ではなく素敵なビジョンだ。)

もう一つの側面は、ビジネスにそれがどのような影響を及ぼすか、という側面だ。社会の変化がビジネスに大きな変化をもたらすのは事実だが、社会が変化しても変わらないビジネス構造も多くある。

社会の変化とビジネスの変化が直結的な関係だと捉えるか、社会の変化とビジネスの変化は緩やかな関係性だと捉えるのかによって、WEB2.0に対する姿勢は随分異なる。多くのベンチャー系WEB2.0論客は前者の立場をとっているようだが、僕は後者の立場に立つ。

さて、

ティム・オライリーの「What IS Web 2.0」の日本語訳( http://japan.cnet.com/column/web20/story/0,2000055933,20090424-6,00.htm )から抜粋したWEB2.0の7つの原則は、以下のようなもの。(ちなみに原文は http://www.oreillynet.com/pub/a/oreilly/tim/news/2005/09/30/what-is-web-20.html )

1.パッケージソフトウェアではなく、費用効率が高く、拡張性のあるサービスを提供する。
2.独自性があり、同じものを作ることが難しいデータソースをコントロールする。このデータソースは利用者が増えるほど、充実していくものでなければならない。
3.ユーザーを信頼し、共同開発者として扱う。
4.集合知を利用する。
5.カスタマーセルフサービスを通して、ロングテールを取り込む。
6.単一デバイスの枠を超えたソフトウェアを提供する。
7.軽量なユーザーインターフェース、軽量な開発モデル、そして軽量なビジネスモデルを採用する。

「Web 2.0」を自認する企業を見かけたときは、その企業が上記の項目を満たしているかどうかを観察してみるといいだろう。当てはまるものが多いほど、その企業はWeb 2.0企業と呼ぶにふさわしい。しかし、特定の分野で突出した能力を示していることは、7つのすべてを少しずつ満たしているよりも、その企業がWeb 2.0的であることを示している場合があることを忘れないでほしい。

これらはオライリー氏が「われわれがWeb 2.0企業のコアコンピタンスと考えているもの」と前置きしている。

さらに、論文の最後に書かれているこの7項目以外に論文の最後のコラムでは別のまとめ方がされている。

Web 2.0のデザインパターン

1.ロングテール
インターネットの過半数を占めているのは小規模なサイトだ。小さなニッチが、インターネットで実現可能なアプリケーションの大半を占めている。したがって:ユーザーセルフサービスとアルゴリズムによるデータ管理を導入し、ウェブ全体――中心部だけでなく周辺部、頭だけでなく長い尾(ロングテール)の先にもサービスを提供しよう。

2.データは次世代の「インテル・インサイド」
データ志向のアプリケーションが増えている。したがって:独自性が高く、同じものを作ることが難しいデータソースを所有することで、競争優位を獲得しよう。

3.ユーザーによる付加価値創造
競争力のあるインターネットアプリケーションを構築できるかどうかは、企業が提供するデータに、ユーザーがどの程度データを加えられるかによって決まる。したがって:「参加のアーキテクチャ」をソフトウェア開発に限定するのはやめよう。ユーザーが無意識に、または意識的にアプリケーションに価値を加えられるようにしよう。

4.ネットワーク効果を促す初期設定
自分の時間を割いてまで、企業のアプリケーションの価値を高めてやろうというユーザーは少ない。したがって:ユーザーがアプリケーションを使うことによって、副次的にユーザーのデータも集まるような仕組みを作ろう。

5.一部権利保有
知的財産の保護は再利用を制限し、実験的な試みを妨げる。したがって:広範に採用されることでメリットが生じるものは、利用を制限せず、採用障壁を低くしよう。既存の標準に準拠し、制限事項を最小限に抑えたライセンスを提供しよう。「ハッキング可能」で「リミックス可能」な設計を心がけよう。

6.永久にベータ版
デバイスとプログラムがインターネットに接続されている今日では、アプリケーションはもはやモノではなく、間断なく提供されるサービスである。したがって:新機能はリリースという形でまとめて提供するのではなく、通常のユーザー経験の一部として、日常的に提供していこう。サービスを提供する際は、ユーザーをリアルタイムのテスターと位置付け、新機能がどのように使われているかを観察しよう。

7.コントロールではなく、協力
Web 2.0アプリケーションは、複数のデータサービスの協同ネットワークによって実現される。したがって:ウェブサービスのインターフェースを提供し、コンテンツを配信し、他者のデータサービスを再利用しよう。軽量なプログラミングモデルを採用し、システムをゆるやかに統合できるようにしよう。

8.単一デバイスの枠を超えたソフトウェア
インターネットアプリケーションにアクセスできるデバイスはPCだけではない。特定のデバイスでしか利用できないアプリケーションは、デバイスの枠を超えて利用できるアプリケーションよりも価値がない。したがって:アプリケーションを設計する際は、最初から携帯端末、PC、インターネットサーバを視野に入れ、統合的なサービスを提供しよう。

たぶん、論文の最後の7項目よりもコラムの8項目のほうがより彼らが考えるWEB2.0のイメージを正確に表現しているように思う。論文の最後の7項目は、彼ら自身が「Web 2.0企業のコアコンピタンス」と言っているのに対して、最後のコラムの8項目の題名が「Web 2.0のデザインパターン」と言っていることからもそれがわかる。そもそも、WEB2.0とは何かを説明するのならば、コラムの8項目を基本にすべきなのだ。

では、この7項目と8項目の違いはなにか。実は8項目のうちの2、5番目、データを中心とした知的財産の権利問題だ。多くの場合これを無視して説明されていることが、WEB2.0が誤解・曲解されている大きな原因ではないかと思う。

さらに多くのWEB2.0論客は論文の最後に述べられている7つの項目に焦点を当ててWEB2.0を論じている(!)ように思えるが、僕はこの7項目には含まれていないけれども重要だと思われるものがまだあると思っている。
それを論文から抽出すると以下のようなものだ。

■プラットフォームとしてのウェブ
~ソフトウェアの価値は、そのソフトウェアが管理するデータの規模とダイナミズムに比例する~

■組み合わせによる革新
~Web 2.0のもうひとつの重要な原則である「組み合わせによる革新」を理解する助けになるだろう。コモディティ化したコンポーネントが大量に存在するときは、これらのコンポーネントを新しい方法、または効果的な方法で組み合わせることによって、新しい価値を生み出すことができる~
~Web 2.0は他社のサービスを利用し、それを統合することによって、市場競争を勝ち抜く機会を企業に提供する~
(※たぶんyahooはこの点を最も重要視しているように思う)

■データは次世代の「インテル・インサイド」
~この事実は、ある重要な問いを投げかける。それは「そのデータを所有しているのは誰か」というものだ~
~今後数年にわたって、データ供給者とアプリケーションベンダーの間では競争が繰り広げられることになるだろう。Web 2.0アプリケーションを開発するためには、特定のデータがきわめて重要な役割を果たすことを、双方が理解するようになるからである~
~コアデータをめぐる争いはすでに始まっている。こうしたデータの例としては、位置情報、アイデンティティ(個人識別)情報、公共行事の日程、製品の識別番号、名前空間などがある。作成に多額の資金が必要となるデータを所有している企業は、そのデータの唯一の供給元として、インテル・インサイド型のビジネスを行うことができるだろう。そうでない場合は、最初にクリティカルマスのユーザーを確保し、そのデータをシステムサービスに転換することのできた企業が市場を制する~
~データに関しては、プライバシーと著作権の問題にも言及しておかなければならない。初期のウェブアプリケーションは、著作権をあまり厳密には行使してこなかった。たとえば、Amazonはサイトに投稿されるレビューの権利が同社に帰属すると主張しているが、その権利を実際に行使しなければ、ユーザーは同じレビューを別のサイトに投稿するかもしれない。しかし、企業はデータ管理が競争優位の源泉となることを認識しつつあるので、今後はデータ管理がこれまでよりも厳しく行われることになるかもしれない~

■オペレーションそのものがコアコンピタンスとなる。
~インターネット時代のソフトウェアの決定的な特徴のひとつは、それがモノではなく、サービスとして提供される点にある~
~製品開発能力は、各社のオペレーション能力に比例するようになる~
~サービスとして提供されるソフトウェアは、日々の保守なしには正しく機能しない~

ここで挙げた4つの項目のうち、前半の二つは「プラットフォーム」「マッシュアップ」という言葉で広く理解されているが、後半の二つ「データの権利」と「オペレーションできる組織能力」については不思議なほど、ほとんど語られていないし、理解もされていない。これは論文の最後の7項目とコラムで書かれている8項目の差分に近い。

さらに論文には明確には書かれていないが、ユーザーは賢いものだ、という前提も気になる。ブログにおけるコンテンツのレベルの低さ、トラックバックスパムの横行、相互リンクしない単なるご挨拶トラックバックの浸透などを見れば、ユーザーのレベルは様々であることがわかる。これは本質的な話というよりもむしろビジネスを考える時のマーケティング的な視点によるものだから、気になる程度の話ではあるけれども。


『WEB2.0についての基本的理解(後編)』

さて、WEB2.0がどのようなものであるのかの基本的理解の後編。

前編では、WEB2.0という言葉の提唱者、ティム・オライリー氏がその論文でどのようにWEB2.0を表現しているかを見返してみた。

世の中の概念の多くは、提唱者の考えていたことがそのまま完全に同じ意味で広まることは少なく、今回のWEB2.0は特にその傾向が強い。順番としては
 ①もともとはどのような意味であったか
 ②世の中一般にはどのような意味で広がっているか
 ③その上で、自分はそれをどのように理解するか。
というように、説明を進めるのが好ましいとは思うが、WEB2.0については世の中一般の理解がどのようなものかを論じるにはあまりにも理解が拡散しているのであまり意味はないと思う。だからここでは、僕がどのように理解しているのかを書く。

■WEB2.0を一言で言えば。

オライリー氏本人が「Web 2.0の本質が、集合知を利用して、ウェブを地球規模の脳に変えることだとすれば」といっていることがたぶんそのままの回答だ。WEB2.0とは技術のトレンドではない。社会の変化の流れを表現したものでもない。新しいインターネットサービスの概念でもない。

WEB2.0とはたぶん、壮大なビジョンだ。予言であり希望だ。それは人類の英知がインターネットというプラットフォーム上であたかも人類全体の脳になるような世界へのイメージだ。web & peace だ。

■WEB2.0の二つの側面。その1

前編でも書いたが、社会的側面から書く。僕の理解では、WEB2.0とは実は一言で言えばビジョンなのだから、この社会的側面が非常に強い。そしてこの側面は、それがどのようにビジネスとして実現されるのか、ここでいうWEB2.0のコストはだれがどうやって負担するのか、ということは全く語られていないしそれには意味がない、預言であり希望なのだから。

社会的な側面から考えるとするとさらに、人類の英知の集積ということとは別に、社会構造がビジネス中心からボランティア・コミュニティ的な要素が強くなることを暗示していると思う。これはビジネスの縮小を意味するわけではなく、それ以上にボランティア・コミュニティが拡大していくということだ。オライリー氏が挙げているWEB2.0的なサービスのうちビジネスモデルとして確立しているものは案外少ないし、wikipediaなどはビジネスではないWEB2.0サービスの典型だ。

そしてビジョンとしてWEB2.0を捉え、説明するとWEB2.0の説明は以下のように読み替えることが出来る。いずれもビジョンに向かって何を実現すべきなのかがその説明となる。

1.webアプリケーションであろうとOS依存のアプリケーションであろうと、すべての手段、デバイスで利用可能な知の集合体を実現すべきだ。

2.データベースはその所有者のビジネスを阻害しない限りにおいて自由に利用できるように全部権利留保から一部権利留保に変わっていくべきだ。

3.人類の知は特定の企業や個人が持つものではないから、すべてのヒトがその知を後世に残していくことができる環境を作るべきだ。それが社会的価値を増やしていくことにつながる。

4.人類の知の集積を目指すのならば、必然的にその範囲はロングテールになる。それを実現するために、アプリケーションの相互接続と出来るだけたくさんのヒトの参加を推進しよう。

5.これらのコストを賄うために、ビジネスとの相乗効果、補完関係、メセナの取り組みはますます検討されるべきだ。

■WEB2.0の二つの側面。その2

では、WEB2.0のビジネスとしての側面。ここも実は除外しないといけないビジネスがあり、それはWEB2.0のサービス提供者ではなく、サービス提供者を支援する人たちのビジネスだ。サーバー販売、プログラム開発、ツール提供、人材派遣、コンサルタント。これらの人たちもWEB2.0サービスに価値は提供するが、本質的にはWEB2.0とは直接関係がないサードパーティの人たちだ。あえて言えばmovable typeのシステム提供者はWEB2.0とは何の関係もない。ただのプログラマだ。その人たちのことはビジネスとしては明確に除外して考えるべきだ。

ではWEB2.0時代のビジネスではどのような人たちが抜け出すのか。

データベースの保有・創出、オペレーションができる組織能力の保有・獲得。この二つがWEB2.0時代に大成功を収める企業の前提条件だ。これはオライリー氏も明確に言及している点でもある。

そして、ビジネスモデルとしては旧来のWEB1.0でのビジネスモデルと新しいWEB2.0でのビジネスモデルの複合型となるはずだ。googleでさえも、検索エンジンというデータベースとそれを破壊的な低コスト構造で運営する能力を持っているが、ビジネスモデルは広告ビジネスであり、収益モデルはサーチワード広告とロングテールの象徴であるアドセンスだ。

既に巨大な価値のあるデータベースを保有する企業にとっては、既にそれを運営する組織能力はあるから、データベースをより価値のあるモノにすること、そしてより価値のあるものにすることによって新しいビジネスを生み出すことが、成功の糸口となるはずだ。そのためには、既に企業が自らの能力だけで出来ることよりも、ユーザーを巻き込むことで出来ることのほうが、飛躍的にその価値の差があることは証明されつつあるから、そこがポイントになる。

データベースを持たない企業の場合には、データベースを持つ方向に行くのか、それともデータベース自体は持たず、それを補強し新しい価値を生む仕組みを創る方向に行くのかによって異なるが、データベースを持たない、という方向の先には大成功はない。小さな継続可能な、IPOによって一部のヒトが潤う程度の成功しかない。だとすれば、まだ構築されていない領域でWEB1.0的アプローチでデータベースを構築し(その課金先は企業だ。そのほうが圧倒的に売上を立てやすい)、そこから追いつけ追い抜けで頑張るのが正しい方法だろう。

さて、では、商売になるデータベースとはどんなものなのだろうか。WEB2.0で喧伝されているデータベースはその多くが、知としてのデータベースであるが、実は商売になるのは知としてのデータベースではなく、情報としてのデータベースだ。amazonの書籍や商品のデータベースは、知ではない、情報だ。ebayのデータベースも知ではない、情報だ。googleのデータベースは知だが、ビジネスになっているのはサーチワードという情報だ。保有している、もしくは保有すべきデータベースは、ビジネスとしてWEB2.0を考える限りにおいて、知ではなく、情報なのだ。そしてその情報データベースに知を加えることで、情報がより価値を持ちビジネスの成功をもたらす、という構図だろう。

さらに、詳しく言えば、情報にも蓄積されることが価値を生む場合と、その瞬間の状態を把握することで価値を生む場合があり、amazonもebayも実は後者の情報を持っていることが彼らの強みになっている。amazonのそれは在庫情報や売れ筋情報であり、ebayのそれは今取引可能という商品の情報だ。googleにしても検索対象のウェブサイトのデータベースは本質的にはある瞬間のスナップショットでしかない。スナップショットのデータベースであれば、WEBサービスとして公開したとしても、データはリアルタイムに更新されていくから、権利留保が明確であれば、保有者から見ればリスクは少ない。データベースの保有者から見れば、良いサービスであれば取り入れ、悪いサービスに対してはウェブサービスを止めてしまえばよいのだから。

■WEB2.0に於けるお金の稼ぎ方

当たり前のことだが(でも昨今のWEB2.0フィーバーはこれを忘れているように僕には感じられる)ビジネスを成立させるためには売上をあげることが必須の条件なのだが、その売上は簡単に言うと、企業からか、個人からか営業先は基本的には二つしかない。企業からの売上は大抵の場合、リアルなビジネスの延長線に存在するものであり、個人からの売上とは簡単に言えば消費だ。

企業からの売上とは企業の活動プロセスに対してどのような価値を提供するのかで決まってくる。そのプロセスの中でも、インターネットという世界、メディアで力を発揮するのは、求人と顧客を集めるというプロセスだ。知の集積は社会的には価値はあるが、企業にとって価値があるのは、企業活動に必要な人(の能力)を集めることと、ビジネスを拡大するために顧客を拡大することであり、多くの企業にとって知の集積自体はビジネスを生まない。お金の調達も企業にとっては重要なことだが、これはバーチャルな世界にはそぐわないしネットで完結することはありえない。さらにyahooのブランドパネルに代表される企業広告、SP広告もその規模は順調に拡大していくはずではあるけれども、それはTVCMの代替でしかなく、爆発的な新しい価値による事業拡大はあり得ない。

企業からの売上の拡大は、小規模な企業が世界中に対しての広告をリスクの非常に少ない形で可能にしたサーチワード広告のような新しい価値、新しいやり方によって新しい市場を創造することで、爆発的に拡大する。それをWEB2.0と呼ぶべきかどうか僕には判断がつかないが、少なくともその芽は、既にいたるところに存在するはずだ。

一方、個人からお金をもらうにはどうすればよいか。簡単に言えば、当たり前すぎる話だが、個人がお金を払ってもいいという価値を提供することだ。amazonは普通の本屋では実現不可能な品揃えと、集合知である読後感想とそれをリコメンドに昇華させることのできるシステムで価値を作り上げた。ebayは不要品を売りたい、安くモノを買いたいというガレージセールをネット上で大規模に作り上げることで新しい価値を作った。そのいずれもが、ウェブ進化論で言うところの、「恐竜の首」ではなく「ロングテール」による集積であることは興味深いが、個人からお金をもらうことが出来るほどの価値を「恐竜の首」で作り上げることは不可能ではないはずだ。例えばロングテールを構成する普通の個人にとっての収入の大部分は「給料」であり、支出の多くを占めるのは「家賃」だ。「ロングテール」にはもちろんもっと多くの可能性があるが、それらを考える時に、田坂広志氏の「使える弁証法」は多くの示唆を含んでいる。物事は螺旋的に進むのだ。「WEB2.0への道」に田坂氏が登場しているのはそういう意味だ。


『WEB2.0についてよくある誤解』

これはWEB2.0が世の中ではどのように理解されているかを逆説的に書いたものである。世の中ではこういわれているが、僕はこう思う、ということを箇条書きにする。なので、実は誤解だけでなく、僕の認識も一致しているものも含まれる。営業センスのある編集者と鼻の利くライターの組み合わせであれば、「間違いだらけのWEB2.0」という本になるようなことだ。

■WEB2.0はウェブツーポイントオーと読む。
日本人は素直に「うぇぶにーてんぜろ」と読めばよい。

■WEB2.0は新しい技術の名前である。
javaやbasic(古!)excelのようなソフトウェアやプロダクトの名前ではない。インターネットの流れ・変化が大きいのでソフトのバージョンのようにそれが進歩しつつあるという意味で、インターネット(WEB)の世界はバージョン1からバージョン2に発展しつつある、という意味でWEB2.0という言葉が生まれた。

■WEB2.0は技術の流れであり、技術が重要だ。
技術は重要ではない。大事なのはやろうとしていることがどのような価値をもたらすのかということだ。技術はそれを実現させるための手段に過ぎない。だからWEB2.0時代に重要な技術は何だとお考えですか?といったような質問には意味がない。

■すべてのアプリケーションソフトはWEB上のオンラインベースのものになる。
オンラインベースのWEB上で動くアプリケーションは増えるが、これまでの通りOS上で動くアプリケーションはなくならない。(excel・outlook・powerpointがなくなることは絶対にない。)テレビが出てきてラジオがなくなったか?世界は多様化するだけだ。

■AjaxはWEB開発の主流になる。
これはそう思う。Ajaxを使った斬新なユーザーインターフェイスは今後ますます増えてくるだろう。

■RSSリーダーはポータルに取って代わる。
そんなことは起きない。RSSでフォードされるのはテキストデータだけであり、ユーザーはもっと編集されてものを見たいと思っているはずだ。自分な何を欲しているのかを明確に認識できる一部のヒトがRSSリーダーを使うに過ぎない。また多くのブログの更新頻度の低さを考えれば、RSSリーダーよりもメールでの更新通知のほうがよほど気が利いている。

■開発手法はどんどん多様化していく。
すでにそうであるようにいわゆるウォーターホール型の開発だけでなく、アジャイル型、イテレーション、エクストリーム・プログラミングなど開発手法はどんどん多様化していく。ただし、これはWEB2.0の流れというよりもビジネスのスピードがどんどん上がっていくことに対しての必然的な解決手法として、という理由が大きいと思う。

■WEB2.0という流れによって第一世代のWEB1.0企業が衰退しWEB2.0企業が台頭する。
WEB2.0という流れによって第一世代のWEB1.0企業の一部がそれに適用することによりますます繁栄し新規参入が難しくなる。

■WEB2.0という流れはインターネットが登場したときのような断続的な変化である。
WEB2.0というのはあくまで流れであり、インターネットが登場したときのような断続的な変化ではない。今も既にWEB2.0は存在し、今の延長にWEB2.0は登場する。

■WEB2.0的なビジネスが拡大していく。
いまだWEB2.0的なビジネスが何かまだ誰も見つけられていない。もしかしたらビジネスモデルそのものはWEB1.0時代と大きく変わらないかもしれない。ちなみにmovable typeの提供企業やブログ分析によるマーケティング会社などはWEB2.0とは本質的には何も関係のなサービス提供会社である。SUNも同じだ。

■マッシュアップは自由になんでもできることはやってよい。
API(webサービス)が提供されていないからといって、商用サイトをクロールしデータを勝手に再構成して使う、ということは知的財産の権利を侵害している。ブログに書かれている内容はすべて自由に使ってよいというのも間違いだ。

■WEB2.0時代のポイントはスピードだ。
間違いではいがpointでもない。データベースの保有とオペレーションできる組織能力があり、その上でスピードがあれば申し分ないが、スピードだけでは勝負がますます出来なくなる。真似されるスピードも飛躍的に上がるからだ。どうやれば真似されないのかを考えないとスピードだけでは真似されて終わりだ。

■WEB2.0は置換と移行だ。
WEB2.0は拡張と発展だ。

■WEB2.0はこれからのビジネスの方向性を示す概念だ。
たぶんWEB2.0とはビジネスの概念ではない。社会はこうあるべきだ、こう進むだろうというビジョンだ。

■WEB2.0はWEB1.0を駆逐する。
WEB2.0がWEB1.0を駆逐するようなことは絶対に起こらない。WEB2.0によってWEB1.0のサービスが淘汰・選別されることはあってもWEB2.0がWEB1.0の果たしてきた機能を代替することはできない。出版業界を除いて。

■web2.0は大企業にとって脅威だ。
WEB2.0はその意思さえあれば大企業にとってもむしろ追い風だ。データベースとオペレーションの能力は大企業の持つ利点だ。

■WEB2.0によってベンチャーのチャンスが広がる。
簡単なマッシュアップ程度で、小さく生き残ることを目的とするならばそうだろうが、大きな成功を狙うのであれば難易度はどんどん上がっていく。

■WEB2.0にみんなが熱心に取り組もうとしている。
WEB2.0に一番熱心なのは、サーバーやソフトの提供会社とマーケティング会社、それにお金を集めることが仕事である人たちとIT雀と技術オタクであって、多くのWEB1.0企業とこれからWEB2.0を担うであろう人たちは比較的冷静だ。

■すべての業界がWEB2.0の影響を万遍なく受ける。
最もモロに影響を受けるのは出版業界である。ブログが最も影響を及ぼすのは出版である。出版が特定のコネクションをもつヒトの特権だった時代から、ブログという実績を挙げさえすれば、本が出せる時代。逆に言うといまはこういう本を書きましょうと企画されることが多いが、これからは良く書けたブログを発掘することが本の企画になる。

■WEB2.0に乗り遅れると大変だ。
みんなが乗ってくれないと商売にならない人たちがいるだけで、乗り遅れるどころか、マーケットの声を聞きながら毎日の仕事に精進してさえいればWEB2.0という言葉すら知っている必要はない。

■ロングテールを押さえたものが勝者になる。
ロングテールを押さえたほうが有利ではあるが勝者になれる保証はどこにもない。むしろロングテールではないマジョリティを押さえているほうが現状のビジネスモデルではやはり勝者になる確率は高い。マジョリティを押さえている企業がディフェンスのために商売にならなくても良いからロングテールを押さえる、という戦略に出てきた場合、ほとんどのロングテール重視派は勝てない。

■PCだけでは単一デバイスなので携帯やワンセグ、ゲーム機にも対応しないといけない。
ビジネスがPCだけで充分に競争力があるのであればあせってデバイスを拡大することを目的にする必要はない。注意深く世の中の動きを注視し、挽回不可能な遅れが出なければそれで良い。そのためには、いつでも対応が可能なようにアーキテクチャの設計は慎重に行わないといけない。

■ワンセグや無料ネット放送もWEB2.0の重要な要素だ。
これはこじつけだ。その要素が全くないとはいわないが、人類の知として残しておくべき、画像放送はそんなに多くは無い。

■ビジネスモデルを軽量な新しいものに変えていかなければならない。
充分に競争力があり将来性があるのであればビジネスモデルを変える必要はない。むしろ幸運にもそのような状況にあるのであれば、ビジネスモデルの強化・拡張と考えるべきだ。

■データベースやコンテンツはユーザー参加型に変えていく必要がある。
品質や信頼性が非常に必要とされるデータベースやコンテンツの場合は、中央集権的なデータベース・コンテンツのマネジメントであっても良い。そこにどのようにユーザーを参加させることで価値を向上できるのか、が課題なのだ。

■データベースはフリーに公開していかなければならない。
ビジネスを営む上で重要なデータベースはその権利を留保しなければならない。ビジネスを補強・拡大していくために必要な場合だけ、一部権利を留保しつつデータベースの公開を考えていくべきである。

■永久にベータ版なのだから不完全な状態でもサービスをリリースすべきだ。
特に大企業の場合には、ブランドという無形資産が重要なので、リリースすべきかどうかは総合的に判断すべきであって、ベンチャーのように不完全でもスピードが重要だ、という短絡的な判断はしてはいけない。

■WEB2.0を目指していれば成功する。
これからはいくつかの成功した企業・サービスがWEB2.0と呼ばれるだけであって、WEB2.0的なものがすべて成功するわけではない。因果関係が逆だ。

一番の誤解は、置換・移行ではなく、拡張・発展だ、という点にあると思う。これは、どのような立場にいるかで認識が大きく異なる。WEB1.0で成功を収めている企業の多くからみれば実は拡張・発展なのだが、WEB1.0で失敗、もしくはWEB2.0から参入しようとするヒトたちから見れば置換・移行だ。しかもその人たちの立場からするとWEB1.0企業が既に持っている強みを捨ててくれる、置換・移行だと誤解してくれるのは都合が良い。

もう一つ、WEBの世界でのサービス提供プレイヤーでない人たち(ハードメーカーや開発会社、コンサルタントとかだ)から見ても、置換のほうが都合がいい。このような人たちから見れば、WEB2.0ビジネスが成功するか失敗するかは彼らの売上には関係なく、むしろみんなが騒いでくれて、いろいろなことをやってくれたほうがビジネスが拡大するという関係にあるからだ。

WEB2.0という記号に対して、それをビジョンとして捉えまじめに取り組んでいる人たち、もしくはその記号すら知らず、まじめに精進している人たちと、記号を商売にしようとしている人たちを混同していはいけない。

そうだ。WEB2.0とは既に記号なのだ。

Posted by simfarm at 2006年06月19日 23:08

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Comments

有難うございます。
WEB2.0についての理解が出来ました。

Posted by MICk | 2006年06月20日 12:18

MICKさん>
どうもご無沙汰です。
お互いSさんに感謝ですね(^-^)。

Posted by しむら | 2006年06月20日 14:42

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