「脳について解明されていること」レポート(第4回)

もう脱落気味の人が70%くらいいると思いますが、まだまだ続きます(^-^)。
今回は「記憶」に関して。大変興味深い知見が多いです。

第4回 記憶が蓄積されるまで

■記憶の種類(内容で分類)
記憶の内容には次の「陳述記憶」と「非陳述記憶」の二種類がある。
非陳述記憶には体を使って覚える「手続き記憶」と自分の意識とは関係なく覚えている「プライミング記憶」がある。手続き記憶とは、いわゆる「体で覚える記憶」で、自転車の乗り方とか、スキーの滑り方が代表的。一度覚えてしまうと忘れないことが特徴。プライミング記憶とは、サブリミナル効果のように、先に取り入れた情報に無意識に作用を及ぼす現象。また、記憶を作る「海馬」を失っても問題なく記憶する。これらは小脳で記憶される。
陳述的記憶とは「頭で覚える記憶」であり、言葉や絵などにして示すことが出来る記憶。陳述的記憶は、さらに「エピソード記憶」と「意味記憶」に分けることが出来る。「エピソード記憶」は「~を覚えていますか?」という質問の答えになる思い出に関するもの。「意味記憶」は「~を知っていますか?」という質問の答えになる知識に関するもの。《『目からウロコの脳科学』(富永裕久著/PHPエディターズグループ )p.168》《『面白いほどよくわかる脳のしくみ』(高島明彦/日本文芸社)p.124~137》《『ニュートンここまで解明された脳と心のしくみ』(ニュートンプレス)p138》


■記憶の種類(期間で分類)
期間で分類すると次の「感覚記憶」「短期記憶」「近時記憶」「長期記憶」の四種類がある。
<感覚記憶>
脳内のニューロンが一瞬だけ結びつく。目や耳といった感覚器がとらえた外界の様子をごく一瞬保持。たとえば、紙に書かれている数字をぱっと見ると人は反射的にそれを覚える。このとき脳内では複数のニューロンが連結しパターンをつくる。しかし、すぐに失われる。その時間は視覚で1秒弱、聴覚で4秒弱といわれる。テレビの画像を連続した動きとして認識できるのは感覚記憶のおかげ。
また、「とうきょう」という音声を聞いて、「東京」と認識できるのも感覚記憶の働き。「きょう」を聞いたとき、その前の「とう」を忘れていては、「東京」を認識することはできない。

<短期記憶>
短期記憶は、感覚記憶より長く覚えていられるが、それでも20秒から1分程度。視覚の感覚記憶によって一瞬覚えた数字が、強い興味を引く情報(好きな異性の電話番号など)だった場合、覚えようという努力により「短期記憶」となる。
また、会話中の「東京」という話題は、その後「短期記憶」として保持される。

<近時記憶>
数日間覚えていられるような記憶が「近時記憶」。今日の昼食に焼き魚を食べたとか、明日は10時から会議があるとか。「海馬」が短期記憶を集め、近時記憶にする。

<長期記憶>
忘れることがないのが長期記憶。近時記憶を何度も何度も思い返すと、ニューロンの結合部であるシナプスで、ある種のタンパク質がつくられ、結びつきが固定化される。つまり、いつも同じパターンで活動するニューロンの集団が出来る。
近時記憶から長期記憶として脳に定着するまでには約2年かかると推測されている。《目からウロコp.170~173》


■エピソード記憶の蓄積
<短期記憶→近時記憶>
「海馬」が視覚情報、聴覚情報、皮膚感覚の情報というようにバラバラである短期記憶を集めて1つのエピソードにする。
たとえば、「雲取山に登って、標高2017mという標識と、紅葉の景色を眺めながら、おにぎりを食べた」という経験の場合、足腰の疲労感、標識の2017mの文字、紅葉の景色、おにぎりの味と言った短期記憶は、大脳皮質の別々の場所で処理される。海馬でこれらが集まり、統合される。短期記憶は海馬によって結びつけられるため、忘れにくい。これが近時記憶である。

<近時記憶→長期記憶>
海馬が近時記憶の中でも印象的なものに限って、睡眠中に勝手に何度もリプレイする。リプレイによって活動電位が起こり、繰り返されることで、いつも同じパターンで活動するニューロンの集合が生まれる。出来上がるまでに2年かかる。
また、こういうエピソードの経験時は、多くの場合感情の高ぶりを伴う。これで、神経伝達物質が多く分泌されニューロンが活動電位(ニューロン内を走る電気信号)を起こす確率が高まる。よって、ニューロンのパターンがより強くつくられ。記憶に残りやすい。《目からウロコp.174》


■意味記憶とエピソード記憶の関係
「1192年に鎌倉幕府は成立し・・・」などの自分の体験とは関係ない長期記憶で、何らかのきっかけがないと思い出すことが出来ない。しかし、意味記憶は自分の経験を交えることでエピソード記憶に変わり、反対に放っておくとエピソード記憶は簡単に意味記憶にすり替わる。たとえば歴史を記憶する際にはストーリーや人物の心の動きを頭の中でイメージしたり、時折他人に説明したりすれば記憶に定着させやすい。《よくわかる脳p.134》


■エピソード記憶の活用
ザルトマンは「一度貯蔵されたエングラム(脳細胞上で電気化学的に刻み込まれたもの)は、何らかのキュー(合図)あるいは刺激を受けることで活性化する」とし、「こうした刺激こそ、消費者の購買意図につながるような記憶を喚起する手段」としている。さらに「エングラムやキューに加え、消費者が抱くゴール(目標や目的)も記憶に影響を与えており、人々がどのようなキューに気づくか、その結果、どのエングラムが活性化し、彼らの意識に登るかに影響を与える。」《『心脳マーケティング』(ジェラルド・ザルトマン/ダイヤモンド社)p.200~202》


■記憶のゆがみ
人間が感じる光の色の感覚や音の高低の感覚は脳が創造している。その感覚も受けた人の心理状 態や判断で大きく変わる。興味のあることははっきりと、かつ誇張されて脳に刻まれる。逆に見たくないことやいやなことは都合の良いようにゆがめられて記憶される。
さらに海馬が記憶をリプレイするときにも記憶の改変が行われる。様々な記憶の断片がつなぎ合わされたり、空白部分を何かで埋めたり、空想が入り込んだりして何度も海馬によってリプレイされて本当の記憶になる。これを利用し、消費者とって個人的な重要性の高い特徴を強調することで、記憶の長期記憶化を促進できる。
また、記憶の改変には2種類あり、過去の経験について消費者に語ることで、消費者がその製品や買い物について思い出す経験内容が実際の経験と異なるものにする「バックワード・フレーミング」と、将来起こりうる経験を消費者に抱かせる「フォーワード・フレーミング」がある。これらを利用して消費者に対し、実際にはなかった事実を記憶として植え付けることが可能である。《目からウロコp.152, 176》《心脳マーケp.212~218》


■ど忘れを取り戻す「プライミング」
記憶を日々戻すきっかけ。ど忘れの際は「ど忘れする前と似た状況を作る」ことが最適なプライミング。ただし、ど忘れは本当に忘れているのではない。確かに答えは出てこないけれども、その一方で正解をちゃんと知っている。したがい、ど忘れは病気の「認知症」とは違い、「健忘症」である。《『脳はなにかと言い訳する』(池谷裕二/祥伝社)p.82》


■ど忘れとは
記憶を最終的に処理する部位は脳の大脳皮質の側頭葉にある。人生の様々な体験の痕跡はそこに収納されていく。その記憶を欲しいときに前頭葉から側頭葉に「こういう情報が欲しい」というリクエストがいく。そのリクエストに対してすぐに返答すれば「思い出す」ことになるのだが、返答がなかなか戻ってこないときいわゆる「ど忘れ」の状態になる。
「ど忘れ」では思い出すことが出来ないにもかかわらず、絶対自分は知っているはずという認識があり、これを「FOK(Feeling of Knowing)=既知感」と呼ぶ。このFOKが成立し、と側頭葉が答えを返してこないとき「ど忘れ」となる。ペンローズは、この「ど忘れ」の状態と創造性とひらめきを要求している脳の状態が非常に似ていると言っている。《『ひらめき脳』(茂木健一郎/新潮社)p.66》


■ど忘れとひらめき
前頭葉に「今どれくらい脳が努力をしているか」という苦しさの度合いをモニターしている部位があり、「ど忘れ」の時苦しい状態になる。他の動きを抑制するために、わざわざ苦しさを生み出している可能性もあり、この苦しさこそがひらめきを生むサインの可能性がある。「危機(emergency)」こそが「創発(emergence)」である。
ひらめくためには「ど忘れ」同様、記憶の喚起における前頭葉と側頭葉の関係性が重要であり、記憶を司る側頭葉がその準備である「学習」をしていなくてはならない。暗記や記憶などの学習により、記憶のアーカイブが蓄えられ、それをもとにひらめきが生まれるのである。《ひらめきp.72》


■ひらめきと感情・記憶
強烈な感情の働きが起こると、それだけ記憶への定着が強くなる。何かがひらめいたとき、神経細胞は一斉に活動を始める。ひらめいた瞬間の脳の目的はひらめいたそのことを、確実に記憶に定着させること。その瞬間を逃さないため、脳の神経細胞は0.1秒ぐらいの時間で一斉に活動(同時発火)する。脳の学習は神経細胞同士をつなぐシナプスが強められることを意味する。そのためにはシナプスの両側の神経細胞が同時に活動する必要があり、これを「ヘッブの法則」という。
感情に関わる脳の中枢である「扁桃体」は、あるものが「好き」「キライ」といった情報を収納し、処理している。扁桃体を中心とする脳の情動系の機能は、大脳皮質に比べて立ち上がりが少し早い。情動系の処理は粗くて早く、大脳皮質は遅くて細かい。長いひものようなものを見つけると、その瞬間に「ヘビかもしれない」と扁桃体が先回り処理をする。さらに、扁桃体は知覚にある海馬の活動に影響を与える。強く感情を喚起し、扁桃体を活性化させた出来事は、海馬をも活性化させ記憶に定着化しやすくなる。《ひらめきp.93》
すなわち最終的には、大脳皮質の側頭葉に神経細胞間でのシナプス結合のパターンとして書き込まれる。《ひらめきp.120》
海馬が扁桃体を中心とする感情のシステムの影響を受けると言うことで、一つ一つの体験が記憶されるかが決まる。お笑いコンビ「くりいむしちゅー」の上田晋也氏は頭、額、眉毛、目、鼻などの身体の部位に痛みを感じることを想像しながら記憶する。これを「トラウマ記憶術」と呼んでいる。たとえば、「本、時計、灰皿、コップ」を覚えるときには、「本が頭にガツーン!」「時計が額にゴーン!」と当たるところを想像しながら覚えるというのである。痛みを想像することが、記憶に影響を与える脳の感情のシステムを活性化させる上で役に立つというのはありそうである。《『脳の中の人生』(茂木健一郎/中央公論新社)p.57》

Posted by simfarm at 2006年10月03日 07:12